大判例

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東京高等裁判所 昭和59年(ラ)45号 決定

一件記録によると、抗告人は、父米野与三郎と母同とき子との間の第四子として昭和一七年一月一〇日出生したものであるが、父母は昭和三〇年六月二二日協議離婚し、その際、抗告人の親権者を母と定められ、抗告人は、昭和三五年三月一日民法七九一条一項により母の氏(竹谷)を称して同人の戸籍に入籍したこと、その後、抗告人は、村山充弘と婚姻して夫の氏を称し、子を儲けたが、夫が昭和五二年九月二六日に死亡したため婚姻関係が解消されたものの復氏しないままでいること、他方、父米野与三郎は、後に別の女性と婚姻したが、とき子との間の子である抗告人及びその兄姉の四人のほかには子に恵まれなかったところ、最近になって、「米野」の氏による同人及びその祖先にかかる将来の祭祀承継者を抗告人と定めておきたい意向を抱くに至り、抗告人の承諾を得たこと、以上の事実を認めることができる。

本件は、右の事情のもとで、抗告人が父の意向を受けてその祭祀承継者の地位に立つべき関係にあるところから、父と呼称を同じくする「米野」の氏への改氏の許可を求めるものである。

抗告人が戸籍法一〇七条に基づく改氏により得ようとしている氏が、父米野与三郎の民法及び戸籍法に定める身分上の氏たりえないことは、いうまでもないところであるが、民法八九七条が、同条所定の祭祀の主宰者につき、右身分上の氏ないし呼称上の氏が祖先ないし従前の権利者である被相続人と同氏であることを要求するものでないことは、同条の規定の解釈上明らかというべきであり、抗告人がその父方の祭祀を承継するにつき、呼称上の氏を「米野」に変更しなければ重大な支障を生ずる事情はこれを認めるに足りるだけの資料がない。

この点につき、抗告人は、民法七六九条、七五一条二項、八一七条、八〇八条二項の規定を援用して、民法に右各法条が設けられたゆえんは、祭祀主宰者の地位が血族の由来を表示すると観念されている氏と多くの場合結合し、又はその結合が妥当視される現実の社会的事情を立法上無視しえないことにあり、祭祀承継者制度を法認する以上、右制度はその性質上、承継を求める者と承継する者との間に一体感、継続性のあることを前提し、ある範囲では祭祀承継のために氏を呼称上のものとする制約から解放するものであり、なお、右制度の運用は実際上は関係者に物心両面の相応の配慮を促していることを顧慮すべきものと主張する。なるほど、抗告人の援用にかかる民法の各法条が、祖先の祭祀の主宰者がその地位にあるまま他の氏を称する事態の生ずることを除去しようとする意図に出たものであることは、認めなければならないけれども、その場合でも新たに権利を承継すべき者が前権利者の離婚、離縁等による復氏前の氏と同氏の者であることを要求しているとは解されず、結局、民法は、離婚、離縁、生存配偶者の復氏等身分上に特別の変動を生じた場合に、関係当事者の心情を考慮して、新たに権利承継者を定めようとしたものであって、かような特殊な場合の規定があるからといって、氏をもって家の呼称から個人の呼称に改めるべきものとした現行民法の氏についての性格を動かすことはできないというべきである。

(吉井 岡山 河本)

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